トップページ | 2016年10月 »

2016年9月

2016年9月29日 (木)

脅かされる国民皆保険制度の存続

17b
17c  政府は、国民皆保険制度を支えている、薬の価格を決めるプロセスは変更されないと言っています。しかし、制度の枠組み自体は変わらなくても、これまでよりさらに「企業寄り」の運用に変わっていく恐れがあります。

  TPP協定の第26章「透明性及び腐敗行為の防止」の附属書では、各国の薬の価格を決めるプロセスにおいて「透明で公正」な手続きを行うよう求めています。保険収載といって、新しい薬や医療機器を保険に適用する手続きを進める際には、「検討を一定期間に完了すること」や「手続規則、方法、指針を開示すること」を求めたり、製薬会社が不服を申し立てることもできるようになっています。

 日米二国間の交換文書(サイドレター)にも、薬の価格の決め方について、外国の利害関係者が政府の審議会に出席することや、意見書を提出できることが定められています。今後、アメリカの製薬企業が「透明性」を盾に、利害関係者として影響を及ぼすようになり、発言力が今以上に強まっていくでしょう。外国の製薬企業の主張に沿う形で、薬の価格制度が運用されれば、実質的に価格決定プロセスが変わることになります。

 さらに、「関連する将来の保健制度」(日本は国民皆保険制度)について「協議する用意があることを確認」したことも明記されました。いつから何を協議するかは書いていませんが、「協議する」という確約をさせられた形です。このまま外国企業の言いなりとなれば、国民皆保険制度が続いても内側から壊され、空洞化する危険があります。(寺尾正之)

2016年9月27日 (火)

巨大な製薬企業の狙い

16a
16c
 確かに、すぐに「公的医療保険制度(国民皆保険)に関する変更は行われない」かもしれませんが、製薬大企業に有利なルールが盛り込まれました。アメリカの医薬品・医療産業がどれほど巨大かを考えれば自明のことです。各国の交渉で最後まで揉めたのも、薬に関する分野でした。協定文では、薬の特許期間やデータ保護についてのルールが定められました。

 特許期間の延長:新薬は、特許出願から販売承認まで概ね10年かかります。その間に「不合理な短縮」とみなされる期間があれば、その年数分、特許期間は延長されることになりました。政府は、5年を上限とした延長制度が日本にもあると言っていますが、協定文に延長する年数は書かれていません。アメリカが相手では、5年以内に収まる保証はありません。

 データ保護期間:新薬のデータというのは、料理のレシピのようなもので、公開されれば安価なジェネリック薬(後発薬)を製造できます。政府は日本もデータ保護が8年とされているので問題ないと言っていますが、協定文はデータ保護期間を「8年に限定することができる」という表現で、年に限定しないこともあるという、あいまいな文言です。協定発効後10年で再協議も行われますので、さらに長期化する恐れもあります。

 このように、TPP協定が発効すれば新しい薬の価格がなかなか下がらない恐れが強まっています。これは患者の負担に直結し、保険料の引き上げにもつながります。途上国は新薬のデータを早く開示することを求めていて、「国境なき医師団」も「医薬品入手の面で最悪の貿易協定として歴史に残る」と痛烈に批判しているほどです。(寺尾正之)

2016年9月25日 (日)

検疫時間の短縮が引き起こす問題

15b_2

 現在、日本に入ってくる輸入食品は、平均 92時間あまりかけて検疫所でチェックしていますが、TPPでは、48時間以内に検疫を終えて国内で流通させることが原則となりました。

15c_5

  TPP協定文の第5章「税関当局及び貿易円滑化」には、輸入手続きの迅速化という名目で、「原則48時間で必ず入れなければならない」(原文で“shall”(すべき)と記載)と書かれています。日本政府は例外も認められると説明していますが、この条文が厳密に適用されれば、輸入品をしっかりとチェックできるのか、甚だ心配です。今でも、全国の検疫所で400人あまりの検査官が抜き取り検査(検査率 10%程度)を行っているに過ぎないなか、さらに検疫体制がおろそかになることが予想されるからです。

 これまでにも、トマトから基準値を大幅に超える残留農薬が見つかった例がありましたが、判明したときにはすでに全量が消費済みで 4万人以上が食べてしまいました。以前は、検疫所で安全性が確認されるまで留め置いていたのですが、近年、貿易優先の考え方が重視されているのです。今後TPPが発効し、さらにグローバル企業が利益を拡大することが重視されれば、消費者の健康や権利は後回しになりかねません。(山浦康明)

2016年9月24日 (土)

崩壊する食の安全

14a
14b
 政府は「今後も日本の安全基準が変わるようなことはない」と説明していますが、そうではありません。食の安全を守るために規制しようとすると、明確な科学的根拠が必要になり、消費者は食べたくないものがあっても、ますます避けることができなくなります。

  TPP協定の第7章「衛生植物検疫( SPS)措置」には、SPS委員会という専門委員会が新たに設置され、食品の安全性について検討することが書かれています。ここでは締約国や利害関係者が意見を述べることができ、「リスク分析」という客観的で科学的な証拠に基づく考え方が用いられます。

 これは、輸出国や遺伝子組み換え企業・食品企業などにとって大変都合のいいルールです。例えば、遺伝子組み換え作物など、安全かどうか世界でまだ科学的に結論が出ていないものについても、はっきり危険だと証明する必要が出てきます。ヨーロッパでは「予防原則」といって、科学的に因果関係が十分証明されていない状況でも規制を行う考え方がありますが、こうした慎重な考え方は通用しないのです。

 日本政府は、 BSE対策や遺伝子組み換え食品の承認、食品添加物の使用基準、農薬の残留基準などについても規制緩和をどんどん進めています。その背景には、 TPPの貿易優先の考え方に沿い、アメリカからの要求に対して日米平行協議で譲歩を重ねたこと、さらには国際機関の甘い基準を重視していることなどがあります。 TPPが発効すれば、消費者が求める厳しい規制はこれまで以上に実現できなくなります。(山浦康明)

2016年9月23日 (金)

遺伝子組み換え大国ニッポン

13a
13b
 遺伝子組み換え(GM)表示がすぐになくなることはありませんが、今の日本の表示は不十分です。より厳しい義務表示はできなくなります。

 現在、日本で流通するGM作物は大豆、とうもろこし、菜種、綿実で、これらを使った食品には「大豆(遺伝子組み換え)」などと表示することになっていますが、これを積極的に書きたがる企業はいません。 GMと非GMを分別していない(混ざっている)場合は「不分別」と表示することになっているので、実際にはGMを使っているのに関わらず「遺伝子組み換え使用」と書く必要がないという、甘いルールなのです。また、油やしょうゆなど加工度が高いものは表示義務がないなど、抜け道がたくさんあります。

 こうしたなか、消費者からはより厳格な義務表示を求める動きもあります。しかし、TPPでそれはできなくなるでしょう。TPP協定の第8章「貿易の技術的障害(TBT)」には、各国が食品表示のルールを作る際の規定があり、「義務表示」など強制力のある表示を行う場合は、輸出国やGM企業なども利害関係者として関与できる仕組みがあり、必ず反対してくるからです。

 今後GMは、アメリカで承認され話題となったサケなど動物にも広がります。そうしたものに表示義務を課すことも難しくなるでしょう。

 さらに、未承認のGM食品・穀物がわずかに(5%以上)混入していた場合、「違法だから」とアメリカなど輸出国に送り返すことができず、「まず協議する」というルールも作られました。それらを日本が早く合法化するよう、輸出国が要求することも可能になります。日本は、ますます遺伝子組み換え大国への道を突き進むことになるでしょう。(山浦康明)

2016年9月21日 (水)

原産国表示ができなくなる可能性

12a
12c
12d
 じつは、アメリカではこれまで、国内法で牛肉や豚肉の原産国表示が義務付けられていました。米国民はどうしても国産肉を買うため、カナダやメキシコはそのぶん、自国の牛肉が売れなくなります。これは輸入肉に対する差別であり、公平な自由貿易を定めたWTOルールに違反するとして、カナダとメキシコはパネル(紛争解決のための委員会)に訴えました。

 2015年5月、パネルの上級審は、「必要とされる記載を超える負担のある表示」、つまり不当な貿易障壁に当たるとして、訴えを認めたのです。アメリカは敗訴し、原産国表示を廃止しなければならなくなりました。

 WTOの判断の元となった規定は、TPP協定の第8章「貿易の技術的障害(TBT)」にも準用されています。つまり日本の農産物も、原産国の表示ができなくなる可能性があることを意味しています。

 産地の表示ができればいいのでは、と考える方もいるかもしれませんが、それも難しくなるかもしれません。第18章「知的財産」では、地理的表示が「一般名称として日常の言語の中で通例として用いられる言語」(例えば、「新潟県産こしひかり」や「宮崎県産マンゴー」などが考えられる)だと、利害関係者から表示の取り消しを求められる可能性があります。

 また、第8章の附属書にも、食品の包装の表示は「正当な目的で必要なものに限る」「正当な商業的利益が保護されること」とされています。こうしたことから、国産表示や産地表示が海外の利害関係者に不当であるとして訴えられ、日本が敗訴することは十分にあり得るのです。(山田正彦)

林業への影響

11b
  11c_3  たしかに丸太の関税は 1964年にゼロになっており、合板の関税も高いもので10%と、すでに自由化は進んでいます。その結果、安い輸入材に押され、2002年には木材の自給率が18.2%まで下がってしまいました。

 しかし、国際的な森林資源や環境保全の動きで丸太の輸入が難しくなってきたことや、戦後植林した国内の森林が成長し、ちょうど利用できる時期になってきたこと、さらには国産材の利用を広げようと振興策が進められていることを受け、ここ数年で自給率は上昇。 2014年には 31%にまで回復しています。

11e_3   TPPでは、今残っている合板などの関税も長くても 16年で撤廃されます。そうなれば、合板などの輸入がさらに増え、せっかく回復してきた自給率がまた下がってしまいます。国内の山林が荒れたり、国内外の環境に悪影響を与えたりする心配もあります。

 政府は、木材加工施設の大規模化やセーフガードで影響を防ぐと説明しますが、輸入相手国第 3位のアメリカに対してセーフガードはなく、カナダとは4年後にセーフガードの存続自体を再検討することになっています。

 また、地方自治体などで木材の地産地消のために進められている地域材の利用振興策は、「輸入材を差別するもの」としてアメリカなどの企業・投資家から ISDS条項で訴えられかねません。

 林業は、地域経済の再生や環境を守るうえでも、今後の日本にとって大切な分野です。しっかりと着目しなければなりません。(坂口正明)

漁業への影響

10a_2

 

10b_2  TPPは農業の問題としか考えていない人が多く、漁業者からも不安視する声は聞かれません。これまで日本は、漁港の整備や燃料に補助金を交付したり、漁船を造るために低利な融資を行ったりすることで、沿岸の零細な漁民をかろうじて守ってきました。

 ところが TPP協定の第 20章「環境」では、「濫獲(乱獲)や過剰な漁獲能力に寄与する補助金」を規制し、削減・撤廃しなければなりません。政府は、日本は過剰な漁獲に当たらないので、「補助金はなくならない」と説明しています。しかし濫獲とは、「最大持続生産量(総量を減らすことなく漁獲できる最大量)を維持する水準」と定義されており、日本はアジやサバ、イカ、サンマなどを除いて、過剰な漁獲とされる可能性があります。しかもその判断は、国際機関やTPPの小委員会で行われます。参加国のなかに、伝統的な沿岸漁業に理解を示す国は見当たりません。

 もう一つの懸念は、外資系水産会社が漁業権に入札できるようになることです。第10章「国境を越えるサービス」の附属書では、例外は「漁業への投資、または漁業に関わるサービス」だけであり、「漁業」そのものは守られていないと考えられます。イギリスがEUを離脱したのは、沿岸の漁業が外資系企業に荒らされたのも理由の一つだったと報じられています。

 これまで日本の漁業は、いわばセーフガードともいえる IQ制度(輸入上限を定め、それ以上の輸入を禁じる制度)により維持されてきましたが、これも廃止されます。関税も、昆布を除いて即時撤廃または16年かけて撤廃です。このままではひどい打撃を受けるかもしれません。(山田正彦)

2016年9月20日 (火)

約束はどこへ? 反故にされた国会決議

9a

9b
 守られたものなど一つもありません。TPPでは、これまでのFTAと異なり、関税の撤廃・削減をしない「除外」や「再協議」の規定が存在せず、すべての農産物が関税撤廃の対象となります。

 日本の農産物のうち高関税のものは、重要5品目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)などごく一部にすぎません。これらの重要農産物は、地域や国土の保全、国民生活に大きな影響を与えるため、TPPに関する国会決議は、米麦牛肉&豚肉牛乳砂糖は、関税の撤廃・削減をしないことを求めていたのです。しかし、政府はこの決議に反し、重要5品目の29%(170品目)で関税撤廃に合意しました。野党が「無傷のものはいくつあるか」と追及すると、政府は、税率を維持したとするものも含め、すべての品目に手をつけたことも認めました。重要5品目以外では、じつに98%の品目で撤廃されます。

 政府が「例外」とする、即時の撤廃を免れたものには、さまざまな悪条件を押し付けられました。牛・豚肉の関税は大幅に引き下げられ、輸入肉との価格差を考慮すれば実質ゼロで壊滅的な影響を受けます。米、麦、乳製品、砂糖については輸入枠が新設されます。日本は現在、水田面積の4割で減反しながら、WTOの下で年間77万トンの米を輸入していますが、TPPで輸入枠がさらに8万トン近く増えます。輸入が急増した際に関税を一時的に引き上げるセーフガードも発動が著しく難しく、すべて期限付きです。

 さらにとどめを刺すのが、日本だけが農産物輸出国5か国と約束した、発効7年後の見直し協議です。5か国の平均関税撤廃率は99.8%。日本がさらに厳しい譲歩を強いられるのは必至です。(岡崎衆史)

2016年9月19日 (月)

日本はTPPを批准してはいけない

8a

8b
 TPP協定は、全参加国が2年以内に議会承認など国内手続きを終えられない場合、国内総生産(GDP)の合計が85%以上を占める6か国以上が合意すれば、発効することになっています。このこと自体、GDPが重視された経済大国優先のルールといえます。

 TPP参加国ではアメリカと日本がGDPの8割近くを占めているため、両国とも批准しなければ発効できません。その意味では、日本はTPP発効の鍵を握ります。日本が批准しなければ、アメリカの結果を待つことなく、その時点でTPPは破棄となるのです。

 アメリカでは大統領選を控えTPP反対の声がかつてないほど高まっており、批准の見通しはまったく立っていません。その他の国は、2016年2月の署名後は国民への説明や影響試算などを行っており、またアメリカの批准が見通せない中で早期批准をする必要がないため、2016年8月現在で関連法まで含めて完全に批准した国はありません。

 こうした状況のなか、4月の国会、そして秋からの臨時国会で拙速に批准を進めようとする日本の姿は極めて異常です。十分な説明もなされないまま、批准の手続きを進めさせてはなりません。

 アメリカとEUの貿易協定(TTIP)や、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などのメガFTAも、交渉が大幅に遅れています。各国の異なる状況を無視して企業や投資家に有利なルールを押し付けようとする交渉には矛盾と無理があり、また途上国政府や市民社会が強く反発していることが理由です。日本でも、いのちや暮らし、民主主義の観点からも、「TPPはいらない!」という声を上げ続けることが大切です。(内田聖子)

水増しされた経済効果

7b
7c
 日本政府が2015年12月に出した影響試算によると、TPPの発効後10~20年でGDPは2.59%(13.6兆円)上昇、雇用は79.5万人も増えるとしています。2013年の試算に比べると4倍以上もプラスの効果が増えました。

 この試算の前提は、輸出入の拡大によって貿易開放度が上昇する、 生産性の上昇によって賃金・労働供給が増える、所得の向上によって貯蓄・投資が増えて生産力が拡大する、というものです。しかし日本経済は、労働コストを下げることで生産性を上げてきました。自由貿易がさらに進めば、労働コストをさらに下げるしかなく、無理のある前提です。

 米タフツ大学が2016年1月に発表した、より現実的な試算では、日本はTPPの発効後10年でGDPが0.12%減少、雇用は7.4万人失われると分析。日本政府とは真逆の結果となりました。この分析に携わった経済学者のジョモ・K・スンダラム氏は、2016年5月の来日時に「日本政府の試算は驚くほど楽観的」と指摘します。「どの分野で雇用が80万人も増えるのか?」と質問すると、政府の担当者は「どの分野で雇用が増えるかという詳しい試算はない」と答えました。

 また、政府の試算は、農業への影響を過小評価しています。 2013年の試算では4兆円の減少だったのが、2015年には1,500億円の減少と、20分の1以下に縮小。「対策をするから影響はない」というのが政府の主張ですが、影響額を出す前に対策費を入れ込むとは本末転倒です。東京大学の鈴木宣弘教授の試算では、農林水産業の減少額は1.6兆円にも上ります。

 このように、モデルや前提が変われば、試算の結果はいかようにも変わります。貿易を推進する立場にある米国政府の国際貿易委員会(ITC)の報告でも、「TPPによる経済効果はほとんどない」という結果が明らかになっています。日本政府の試算を鵜呑みにするのではなく、第三者機関や研究者による冷静な分析も踏まえた議論が必要です。(内田聖子)

国民に隠ぺいされる交渉史料

6a6d
6c_2
 TPP交渉は、異常ともいえる秘密交渉が貫かれてきました。交渉参加前には「秘密を守ります」と約束する保秘契約書へのサインが求められ、交渉中は国民はもちろん、与党の国会議員でさえ協定文案を見ることができませんでした。一方で、アメリカの大企業やロビイストたち約500人は、「貿易アドバイ ザー制度」を通じて自分たちの要求を協定文に盛り込んできたのです。

 秘密主義の背景にはアメリカの意向が強くあります。 WTO(世界貿易機関)や他のFTAと同じレベルで国民や業界団体、市民社会に情報を開示すれば、多様な意見が出てきて交渉がまとまらない、だから今後は秘密にする、というのがアメリカの考えでした。以降、多くの貿易交渉で秘密交渉がスタンダードになりつつあります。

 大筋合意後、TPP協定文は公開されましたが、日本語に訳されたものは3分の1程度。交渉の過程を記載した文書は発効後も4年間は秘密とされています。 2016年4月のTPP国会批准審議で、野党議員が甘利氏と米国フロマン氏の交渉内容を情報開示請求したところ、出てきた文書は「真っ黒塗り」。政府は 「外交だから仕方ない」と答えていますが、これまで日本が行なってきた貿易交渉の中でTPPほど秘密主義の協定はありません。

 2015年3月、野党議員が「TPPのように『秘密保持契約』に日本がサインをした交渉は過去あったのか」と質問すると、外務省の斎木尚子経済局 長は「TPP以外に例はない」と答えています。日本はどんな交渉をして、何を得て、何を失ったのか?国民の様々な疑問に対し、政府は答える責任があります。

 「知る権利」を奪い、民主主義の根本を揺るがすTPPの秘密主義を、改めて問われなければなりません。(内田聖子)

2016年9月17日 (土)

予断を許さない米国大統領選挙とTPPの行方

5a

5c_9

確かに、アメリカ大統領選の候補者であるヒラリー・クリントン(民主党)もドナルド・トランプ(共和党)も TPPに反対しています。背景には、アメリカ最大規模の労働組合や環境団体などがTPPに反対し民主党議員に強く働きかけていることや、北米自由貿易協定( NAFTA)での雇用喪失の教訓、さらに政府が出したTPP影響試算もほとんど経済効果がなかったことなどがあります。

しかしどちらが大統領になったとしても、 TPPが完全に葬り去られる可能性は五分五分でしょう。クリントンは以前に「再交渉する」とも述べており、トランプも就任後は産業界からの圧力によって完全にTPPを破棄できないかもしれません。再交渉となれば、日本には関税のさらなる引き下げや、畜産農家への補助政策の廃止、保険・共済などの分野でアメリカからさらなる要求を突きつけられる可能性があります。

5b_6

 再交渉とならなくても、アメリカは「承認手続き」を用いて、署名から発効までの間に相手国の国内法や規制をチェックし、変更を求めてくることも考えられます。アメリカは中南米の国々との FTAの中で数々の要求を行い、相手国の国内法を変えさせてきたのです。

 さらに、TPP交渉と並行して進んできた日米並行協議も危険です。TPPを再交渉に持ち込まなくても、2国間の交渉でアメリカが日本に求める内容を実現させることができるのです。ここで決めた規制緩和などの内容をTPP発効前に日本が実行してしまえば、TPPがなくなっても元に戻すことはほぼ不可能です。(内田聖子)

2016年9月14日 (水)

ISDS条項で日本が訴えられる

4b

 政府は、これまでの仲裁のように投資受入国が不利にならないよう、濫訴防止の規定を盛り込んだので心配ないといいますが、本当でしょうか。

 北米自由貿易協定( NAFTA)では、「公正かつ衡平な待遇」というあいまいな義務に対する違反が、多くの仲裁判断の根拠になったことへの批判がありました。そのため TPPでは、「公正かつ衡平な待遇」の意味を明確にしたとされます。例えば、「 TPPや他の国際協定で違反があったとしても、公正衡平待遇義務の違反には必ずしもならない」とか、「投資家の正当な期待を裏切っただけでは義務違反にはならない」という規定があります。しかし、どうすれば義務違反になるのかという要件は明確にされず、恣意的な認定を防止することになっていません。結局は問題を放置したのです。

 また政府は、環境や健康のための規制は ISDSの例外(留保)になるとも説明していますが、そうとはいえません。この規定は、ある規制が「環境、健康その他の規制上の目的に配慮したもの」であっても、投資章のほかの全ての義務をクリアしなければ、例外にはならないというものです。結局、この例外は機能しない、無意味な条項といわざるをえません。

 このように、「日本が訴えられることはない」、「濫訴防止の規定が盛り込まれたので心配ない」というのは誤りです。 ISDSで訴えられれば、多額の裁判費用や賠償金を税金で負担することになります。国民の福祉や環境、健康のために制度を作ることを躊躇させかねません。これは「萎縮効果」( chilling effect)と呼ばれ、大きな問題になっています。(三雲崇正)

2016年9月13日 (火)

ISDS条項の危険性

Tpp3

3c

 ISDSとは「投資家対国家紛争解決( Investor State Dispute Settlement)」の略で、投資家が相手国の協定違反によって損害を受けたときに、仲裁申立てを行い、損害賠償を求めることができる制度です。わかりやすくいえば、外国企業が相手国の政府を訴えられるようになるということです。

 ISDSが貿易協定に入るようになった1960年代以降、約696件の仲裁申し立てが起きましたが、そのほとんどは2000年以降に起きたものです。問題は、公的な裁判所ではなく、私的な仲裁廷で仲裁されるという点です。仲裁人は多国籍企業をクライアントとする弁護士などが担当するケースが多く、訴える側の大企業に有利な判断をしがちなのです。

 特に有力な15人の仲裁人は、これまで公開された投資仲裁の55%に関与し、係争額40億ドル以上の事件の75%に関与していたことが判明しています。このような「仲裁ムラ」にとっての関心事が、公共の利益よりも、顧客である大企業や仲裁ビジネスの繁栄にあることは明らかです。

 例えば、アメリカの大手石油企業「シェブロン」とエクアドル政府との事件では、現地子会社が環境汚染を引き起こしたシェブロンに対し、エクアドル地方裁判所が損害賠償命令を出していました。ところが、仲裁裁判所は、エクアドル政府にこの判決の執行停止を命じたのです。地域住民の人権を救済するために、裁判所が損害賠償を命じるのは当然のことですが、仲裁廷はそれが投資協定に違反すると判断したのです。

 この事件では、仲裁裁判所が判決の執行停止をその国の政府に命じたことも問題です。近代国家では三権分立の下、政府は裁判所の判決に従わなければなりません。しかし仲裁裁判所は、その原則を破るようエクアドル政府に命じたのです。 ISDSが国家の主権を何重にも侵害することは明らかです。

 このように、その国の民主主義や主権を無視し、社会的弱者を救済することが困難になる点で、ISDSには根本的な問題があるのです。(三雲崇正)

TPPは特定集団のための貿易協定

Tpp21_2

2c

 ノーベル経済学賞を受賞したアメリカの著名な経済学者のジョゼフ・E・スティグリッツ氏は、「TPPは特定集団のために『管理』された貿易協定だ」と述べています。もしTPPが純粋に自由貿易(関税ゼロ、非関税障壁を廃止)を実現するもので、そのことに各国も同意しているのだとしたら、交渉はここまで長期化せず、また協定文もこれほど複雑で膨大(英文で6,500ページ以上)なものにはならなかったでしょう。

 しかし実際には、TPP協定文の30章のなかで貿易に関わる章はたったの5つで、残りはルールに関する部分。つまり各国の法律や規制を、グローバル企業の都合がいいように変えていくための中身です。一方、各国には譲れない領域もあるため、結果的にTPPは、自由貿易という意味では「不完全な」協定になっています。そもそも、環境にかかわる規制や食の安心・安全にかかわる規制、また自動車の排ガス規制、金融規制など、私たちの暮らしに欠かせないルールも、輸出を増やし国際的なサプライチェーンをつくりたい企業にとっては「反貿易的」となります。しかし、だからといってこれらの規制をなくすことは社会のあり方そのものへの脅威となります。

 スティグリッツ氏はまた、「協定のそれぞれの条項の背後には、その条項をプッシュしている企業がある。米通商代表部(USTR)が代弁しているのは、そういう企業の利益であり、決してアメリカ国民の利益を代弁しているわけではありません。ましてや日本人の利益のことはまったく念頭にありません。『規制を取り払え』という考え方は、じつにばかばかしい。問うべきなのは、『どんな規制が良い規制なのか』ということのほうなのです」
とも指摘しています。

 じつはスティグリッツ氏は、2016年3月に来日し、首相官邸で日本の経済政策について意見を述べています。その際、消費税増税への反対だけが報道されましたが、来日講演の大半がTPP批判であったことはあまり知られていません。(内田聖子)

2016年9月12日 (月)

1% vs 99% 貧困と格差

Copy_2

1c

 今世界では、最も裕福な上位10%の富裕層が世界の富の87.7%を所有しています。日本でも2%の富裕層が純資産1億2000万円以上の富を得ている一方で、貧困率は6人に1人(2014年)。ひとり親など大人1人の世帯に限れば貧困率は54.6%で、先進国で最悪の水準です。

 1980年代は、富裕層がより豊かになれば、いずれ貧困層にも富がこぼれ落ちる「トリクルダウン」が信じられていました。しかし30年以上たった今、行き過ぎた市場原理主義や自由貿易推進こそが、世界の貧困・格差を生み出す原因であることが実証されています。グローバル経済の推進者である経済協力開発機構(OECD)や世界銀行、自由貿易を推奨してきた経済学者たちも認めていることです。

 TPPは、こうした負の教訓を無視し、一部の富裕層や大企業・投資家にとって有利なルールをさらに進めようとするものです。交渉や協定文作成に関与してきたのは米国の大企業やロビイスト、大企業から政府交渉官に「転職」した人たちです。米通商代表部(USTR)のトップであるマイケル・フロマン氏は大手銀行シティ・グループ出身であり、製薬企業の元重役が「知的所有権」の交渉官、保険会社出身者が「金融サービス」の交渉官、モンサント出身者が「衛生植物検疫」の交渉官……ということも当たり前の世界です。

 TPPの他にも、現在世界では「メガFTA」と呼ばれる貿易交渉が着々と進んでいます。米国とEUの間のTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)や日本、米国、EUなど50か国からなるTiSA(新サービス貿易協定)、さらには「中国版TPP」ともいわれるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)などです。これらはいずれも、大企業優先のルールであり、ISDS条項が含まれ、秘密交渉である点などTPPと共通しており、参加国の市民社会からは貧困と格差を助長し、人権や環境に悪影響を及ぼすと強く批判されています。(内田聖子)

2016年9月 5日 (月)

TPP反対

詳しくはブックレットをお読みください。
http://notppaction.blogspot.jp/

トップページ | 2016年10月 »