2016年11月19日 (土)

環境への影響

23b
 貿易や投資の自由化を前提とする TPPでは、環境保護や気候変動対策などの国際的な課題よりも、大企業や投資家の利益が優先されています。そのため、 TPPでは環境保護はあくまで「努力目標」であり、何の義務づけもありません。第 20章「環境」には具体的な罰則や企業への責任追及を求める規定がほとんどないのです。

 こうしたことを受け、アメリカやオーストラリアの NGOは、環境に悪影響が出るとの批判を強めています。具体的には、 .少なくとも 7つの国際環境条約について実効性ある規定を設けるべきであるにもかかわらず、触れているのはワシントン条約に関してのみ。 .違法に伐採された木材、違法に捕獲された野生生物等の貿易を禁じていない。 .IUU漁業(違法、無報告、無規制)への取り組みが十分ではない。 .フカヒレの貿易と商業捕鯨を禁じていない。 .「気候変動」という文言すらなく、低炭素型経済への移行は自主的な手段を促すにとどまっている、などです。

 また、 ISDS条項も環境にとって大きな脅威です。すでに多くの自由貿易協定で起きているISDS提訴では、天然ガスや石油企業など、環境破壊に関わる企業が莫大な損害賠償を求めているケースが数多くあります。

  ISDSは企業や投資家に有利に働くことが多く、提訴される国は途上国だけでなく、アメリカやカナダなどの先進国も含まれており、日本も他人事ではありません。脱原発や低炭素型社会への移行など、私たちにとって望ましい政策への変更も、「企業の利潤追求の障害だ」とされて訴えられる危険は十分にあり、そうした政策や規制を進めることを委縮させる懸念もあります。(内田聖子)

2016年11月 5日 (土)

公共サービスへの影響

22b                                                         

22c_6  国民生活や地域社会に広く関わる分野に、TPPで初めて独立した章として設けられた第 17 章「国有企業」があります。ベトナムなど国営企業の多い国が一番影響を受けますが、私たちの暮らしにも無縁ではありません。

 国有企業とは、政府が出資して公的なサ-ビスを提供する企業のことです。金融、郵便、病院、鉄道、空港、政府機能・政策を担う公有企業など、国民生活に関わるものが多くありますが、対象企業はT PPの発効後 6か月は公表されません。どんな影響があるのか、国会で審議することもできません。

  TPPには、国有企業は一般の企業と同じ土俵で競争をしなければならないという考え方が貫かれています。問題は「非商業的援助」、つまり必要とされる財政支援の禁止です。鉄道や病院、郵便など、地域に欠かせない事業体には、公的支援を受けているものがあるため心配されます。

 政府は「営利目的でない独立行政法人は対象とならず、公共的な事業に影響はない」と言っています。しかし、病院も含め、一般企業と変わらないしくみで事業を行い、必要な利益を確保している例は多くあります。政府の説明を鵜呑みにできるのか、大いに疑問です。

 政府は「国内の事業は対象にならない」とも説明していますが、協定文では「貿易または投資に影響を及ぼすもの」とされており、「影響があるもの」については対象になりえます。また、鉄道、金融などは海外展開が活発化しているので、規制の対象になるはずです。この章の対象外でも、投資・金融など他の章の規制からは逃れられません。そして、他の参加国が多くの国有企業を例外にしているのに、日本だけはゼロなのも問題です。(近藤康男)

2016年10月28日 (金)

外国企業が日本の公共事業を落札していく

21
21c
 公共事業については、第15章「政府調達」が関係してきます。「政府調達」では、国や政府機関、地方政府などが物品やサービスを調達したり、建設工事を行ったりする際のルールを定めており、TPPは国内企業と同じ条件を外国企業に与えなければなりません。

 一つ目の問題点は「使用言語」です。 TPPは英語を使うことを奨励していますが、これは事実上、英語の強制を意味しています。入札の際の書類の英語化が進むなど、相当のインパクトを生むでしょう。

 二つ目は、調達の「公正性の確保」です。これは「談合の排除」を意味します。日本は談合社会ですので、著しい影響が出てくるはずです。

 三つ目は、中央政府、地方政府、政府団体のほとんどすべての分野について、日本は最大級の市場開放を約束したことです。その結果、世界最大級の建設会社「ベクテル」や、資源開発会社「ハリバートン」などの巨大外国企業が、政府や自治体が行う公共事業などを落札していく可能性が高まります。日本の調達構造が変えられ、海外資本による地方経済への浸食が進めば、地域の建設業者や中小企業の倒産も避けられなくなるでしょう。

 また、日本の地方自治体では、地域経済の振興のために「中小企業振興基本条例」や「公契約条例」を制定し、地元の中小企業への発注を積極的に行うところが増えています。しかし、第9章「投資」では、地元から雇用や物品、サービスの調達を求める「現地調達の要求」を禁止しており、こうした条例ができなくなる恐れがあります。このように、TPPは地域経済の振興策や自治体主導の地域づくりの障害にしかなりえません。(和田聖仁)

2016年10月16日 (日)

著作権に関する問題

20a_3
20b_2
 著作権に関してはアメリカの勝利であり、「知財の米国化」が進むことになるでしょう。アメリカの映画やアニメ、キャラクタービジネス、巨大IT企業などは特許・著作権料で15.6兆円(2013年)もの外貨を稼ぐ輸出産業。TPPでは、当初から著作権保護強化と厳しい罰則規定を求めてきたのです。

1)著作権保護期間の延長:日本では著作権の保護期間は作者の死後50年ですが、TPPで70年に延長されます。これによって、著作権保護期間が終了した作品を無料で共有したり、再出版して新たな文化価値を生み出す活動(青空文庫など)が大きな制約や打撃を受けます。日本の著作権料の国際収支は年間約8000億円の赤字で、年々拡大しています。保護期間の延長でメリットを得るのはディズニーなどの企業でしかありません。

2)非親告罪化:日本では著作権侵害は、著作者自身が告訴しなければ国は起訴・処罰ができない「親告罪」です。しかしTPPでは非親告罪化、つまり本人以外の第3者からの通報によって捜査可能となり、パロディや二次創作などの萎縮が懸念されます。日本政府は非親告罪化は「商業的規模の海賊版」「原作の市場での収益性に大きな影響がある場合」に限定するとしていますが、定義は曖昧で警察当局の判断次第です。しかも海賊版の取り締まりは、各国の法律順守や締約国同士の警察の連携によって十分対処できることで、非親告罪化の必要はありません。

3)法定賠償金制度:日本では著作権が侵害された場合、権利者の実損害のみを賠償金として求めることがほとんどで、金額は少額です。一方、アメリカでは法定賠償金という制度が存在し、実損害の証明がなくても、裁判所が懲罰的な賠償金を決められます(1作品で15万ドルまでの法定賠償金や弁護士費用も別途請求)。これが導入されれば知財訴訟が頻発、賠償金も増加し、結果的にコンテンツビジネスが委縮する危険があります。何よりも、訴訟社会であるアメリカの裁判文化を持ち込むことにほかなりません。(内田聖子)

2016年10月 6日 (木)

日本を狙う者たち

19a_2
19c
 TPPの根本にあるのは、金融も国境の壁を取り払い、資金の流れを阻害することなく自由に流動させる新自由主義の思想です。シティバンクやゴールドマンサックスといった、ウォール街のメガ金融グループが主導する国際金融資金の流れを止めることは、さらに困難になるでしょう。

 こうした勢力が日本で狙っているのは、ゆうちょ銀行・かんぽ生命やJA共済などの資金、さらには年金(GPIF)、日銀マネー、企業の内部留保など、日本が戦後70年かけて蓄えてきた富です。2007年の郵政民営化のときの郵便貯金・簡易保険の資金流出と同じで、TPPはそのバージョンアップといえます。これらの資金が国際金融市場に流出すれば、日本社会の貧困化がより一層進むのは必至です。

 アメリカは第11章「金融サービス」をとても重視しています。最大の問題点は、金融危機に陥った際に、国民生活や消費者を守るために各国政府が行う金融安定化政策(マクロプルーデンシャル措置)を、事実上行使できなくなることです。1997年に起きたアジア通貨危機に対してマレーシアが行った「資本取引規制・固定相場制」や、2008年のリーマンショック後にアメリカで成立した「ドッド=フランク法(ウォール街改革・消費者保護法)」など、自国の金融システムを守る規制が、TPPの下では働かなくなるということです。アメリカ国内でも、金融危機が再び引き起こされる危険性が高まるという批判が出ているほどです。

 加えて、第17章「国有企業」の附属書では、日本だけが留保(例外)を出していません。政府は、日本政策金融公庫など国有企業をすべて民営化し、外国資本の傘下にしても構わないと考えているのです。(和田聖仁)

2016年10月 3日 (月)

かんぽ生命や共済はどうなるの?

18b

 第11章「金融サービス」では、金融の定義は「すべての保険、銀行、その他の金融サービス」とされ、「保険」が金融の一つに位置づけられています。「共済」という記述はありませんが、これまでのアメリカや業界団体の主張で「保険」に共済が含まれているのは明らかで、今後、共済に対する意見が寄せられることは十分想定されます。

 アメリカの狙いの一つ目は、日本国内での医療保険市場の拡大です。アメリカはかねてより、かんぽ生命や共済(JA共済、全労済、コープ共済、都道府県民共済など)に対して「民間保険会社より優遇されている」として、金融庁に対し、民間保険会社と同じように共済団体を管理・監督させるよう要求しています。保険会社と同様の基準で運営されれば、利潤第一の経営が求められ、どこの地域でもカバーされるユニバーサル・サービスや、非採算部門などは撤廃されることになり、加入者の立場に立った運営はできなくなるでしょう。

 二つ目の狙いは、共済団体が将来の給付のために積み立てている積立金を金融市場に還流させることです。郵政民営化による「かんぽマネー」が財界や機関投資家、海外投資家の運用財源となったように、共済団体の積立金運用を金融市場に還流させようとしています。

 これまでのところ、 TPP協定の中で共済について具体的な取り扱いは示されていませんが、アメリカは 1990年代から毎年のようにかんぽ生命や共済に対して規制強化を要求してきており、 TPPにおいても「米国側関心事項」として、保険(共済を含む)が位置づけられています。(橋本光陽)

2016年9月29日 (木)

脅かされる国民皆保険制度の存続

17b
17c  政府は、国民皆保険制度を支えている、薬の価格を決めるプロセスは変更されないと言っています。しかし、制度の枠組み自体は変わらなくても、これまでよりさらに「企業寄り」の運用に変わっていく恐れがあります。

  TPP協定の第26章「透明性及び腐敗行為の防止」の附属書では、各国の薬の価格を決めるプロセスにおいて「透明で公正」な手続きを行うよう求めています。保険収載といって、新しい薬や医療機器を保険に適用する手続きを進める際には、「検討を一定期間に完了すること」や「手続規則、方法、指針を開示すること」を求めたり、製薬会社が不服を申し立てることもできるようになっています。

 日米二国間の交換文書(サイドレター)にも、薬の価格の決め方について、外国の利害関係者が政府の審議会に出席することや、意見書を提出できることが定められています。今後、アメリカの製薬企業が「透明性」を盾に、利害関係者として影響を及ぼすようになり、発言力が今以上に強まっていくでしょう。外国の製薬企業の主張に沿う形で、薬の価格制度が運用されれば、実質的に価格決定プロセスが変わることになります。

 さらに、「関連する将来の保健制度」(日本は国民皆保険制度)について「協議する用意があることを確認」したことも明記されました。いつから何を協議するかは書いていませんが、「協議する」という確約をさせられた形です。このまま外国企業の言いなりとなれば、国民皆保険制度が続いても内側から壊され、空洞化する危険があります。(寺尾正之)

2016年9月27日 (火)

巨大な製薬企業の狙い

16a
16c
 確かに、すぐに「公的医療保険制度(国民皆保険)に関する変更は行われない」かもしれませんが、製薬大企業に有利なルールが盛り込まれました。アメリカの医薬品・医療産業がどれほど巨大かを考えれば自明のことです。各国の交渉で最後まで揉めたのも、薬に関する分野でした。協定文では、薬の特許期間やデータ保護についてのルールが定められました。

 特許期間の延長:新薬は、特許出願から販売承認まで概ね10年かかります。その間に「不合理な短縮」とみなされる期間があれば、その年数分、特許期間は延長されることになりました。政府は、5年を上限とした延長制度が日本にもあると言っていますが、協定文に延長する年数は書かれていません。アメリカが相手では、5年以内に収まる保証はありません。

 データ保護期間:新薬のデータというのは、料理のレシピのようなもので、公開されれば安価なジェネリック薬(後発薬)を製造できます。政府は日本もデータ保護が8年とされているので問題ないと言っていますが、協定文はデータ保護期間を「8年に限定することができる」という表現で、年に限定しないこともあるという、あいまいな文言です。協定発効後10年で再協議も行われますので、さらに長期化する恐れもあります。

 このように、TPP協定が発効すれば新しい薬の価格がなかなか下がらない恐れが強まっています。これは患者の負担に直結し、保険料の引き上げにもつながります。途上国は新薬のデータを早く開示することを求めていて、「国境なき医師団」も「医薬品入手の面で最悪の貿易協定として歴史に残る」と痛烈に批判しているほどです。(寺尾正之)

2016年9月25日 (日)

検疫時間の短縮が引き起こす問題

15b_2

 現在、日本に入ってくる輸入食品は、平均 92時間あまりかけて検疫所でチェックしていますが、TPPでは、48時間以内に検疫を終えて国内で流通させることが原則となりました。

15c_5

  TPP協定文の第5章「税関当局及び貿易円滑化」には、輸入手続きの迅速化という名目で、「原則48時間で必ず入れなければならない」(原文で“shall”(すべき)と記載)と書かれています。日本政府は例外も認められると説明していますが、この条文が厳密に適用されれば、輸入品をしっかりとチェックできるのか、甚だ心配です。今でも、全国の検疫所で400人あまりの検査官が抜き取り検査(検査率 10%程度)を行っているに過ぎないなか、さらに検疫体制がおろそかになることが予想されるからです。

 これまでにも、トマトから基準値を大幅に超える残留農薬が見つかった例がありましたが、判明したときにはすでに全量が消費済みで 4万人以上が食べてしまいました。以前は、検疫所で安全性が確認されるまで留め置いていたのですが、近年、貿易優先の考え方が重視されているのです。今後TPPが発効し、さらにグローバル企業が利益を拡大することが重視されれば、消費者の健康や権利は後回しになりかねません。(山浦康明)

2016年9月24日 (土)

崩壊する食の安全

14a
14b
 政府は「今後も日本の安全基準が変わるようなことはない」と説明していますが、そうではありません。食の安全を守るために規制しようとすると、明確な科学的根拠が必要になり、消費者は食べたくないものがあっても、ますます避けることができなくなります。

  TPP協定の第7章「衛生植物検疫( SPS)措置」には、SPS委員会という専門委員会が新たに設置され、食品の安全性について検討することが書かれています。ここでは締約国や利害関係者が意見を述べることができ、「リスク分析」という客観的で科学的な証拠に基づく考え方が用いられます。

 これは、輸出国や遺伝子組み換え企業・食品企業などにとって大変都合のいいルールです。例えば、遺伝子組み換え作物など、安全かどうか世界でまだ科学的に結論が出ていないものについても、はっきり危険だと証明する必要が出てきます。ヨーロッパでは「予防原則」といって、科学的に因果関係が十分証明されていない状況でも規制を行う考え方がありますが、こうした慎重な考え方は通用しないのです。

 日本政府は、 BSE対策や遺伝子組み換え食品の承認、食品添加物の使用基準、農薬の残留基準などについても規制緩和をどんどん進めています。その背景には、 TPPの貿易優先の考え方に沿い、アメリカからの要求に対して日米平行協議で譲歩を重ねたこと、さらには国際機関の甘い基準を重視していることなどがあります。 TPPが発効すれば、消費者が求める厳しい規制はこれまで以上に実現できなくなります。(山浦康明)

«遺伝子組み換え大国ニッポン